高齢者によくみられる症状や病気(3):「症状がない」ことにご用心!?
みなさま、こんにちは。
【高齢者によくみられる症状や病気】第3回、今日のタイトルは「症状がない」ことにご用心!?です。
症状や病気について紹介していくブログなのに、「症状がない」ことをテーマにしていることを不思議に思われたかもしれません。
「症状がない」=「病気にかかっていない」と考えがちですが、実はここに大きな落とし穴があります。
具体的な例を幾つか紹介いたします。これから紹介する事例は実際に私が診療をしていて経験したものです。
事例1.「痛くもかゆくもないけど、精巣が大きくなった」
「数ヶ月前から精巣が徐々に大きくなった。特に痛くもないから放っておいたけど、少し気になって外来を受診した」という患者さんがおりました。
精巣とは精子をつくる臓器で男性のみにあります。この患者さんの診断は精巣がんで肺に多数転移をしておりました。精巣がんは精巣のサイズが大きくなっても痛みなどの症状を伴わないことが特徴なのです。
一方、精巣に痛みが生じた場合に疑われる病気には、精巣捻転、精巣上体炎などがありますが、これらは「がん」ではありません。
事例2.「両目とも左側が見えない」
両目とも同じ側が見えなくなることを「同名半盲」といいます。この患者さんは両目とも左側が見えなくなって、眼科を受診しました。
眼科では「原因は目ではないので、脳外科に行くように」と言われたそうです。脳外科では「脳に腫瘍がありますが、原因は他にあると思います。内科に行くように」と言われたそうです。内科では「脳に腫瘍があるばかりでなく、肺に多数の腫瘍があります。しかし、原因は他にあると思います。泌尿器科へ行くように」と言われたそうです。
そうして、最終的に泌尿器腫瘍を専門としている私の外来に患者さんが来院しました。この患者さんの診断は左腎臓がん、多発肺転移、多発脳転移でした。つまり、最初に腎臓がんとなり、徐々に増悪して病巣が広がり、肺と脳に転移をきたした状態です。
腎臓は後腹膜腔という背中側にある臓器で2つあります。尿をつくったり、血圧を調節したり、人体にとってさまざまな大切な働きをしています。腎臓にがんが出来ても、よほど大きくならない限り症状は出ません。たまたま検査で偶然に発見されることが多いことから「偶発がん」と呼ばれています。
この患者さんも腎臓にがんが出来ても症状はなく、脳に転移して初めて目が見えなくなるという症状で異変に気づいたのです。
事例3.「体の節々が痛い」
背中や股関節など体のあちこちが痛みだして、整形外科を受診した患者さんがいます。整形外科では「骨に多数の腫瘍ができていますが、原因は他にあると思います。泌尿器科に行くように」と言われ、患者さんが私の外来を受診しました。この患者さんの診断は、前立腺癌、多発骨転移でした。
前立腺にがんが出来て、がんが骨に転移して、初めて「体の節々が痛い」という症状が出たのです。頻尿や尿の勢いが弱いといった症状は前立腺肥大症によく見られますが、前立腺がん初期の段階では殆ど症状が表れません。
以上、事例を3つ紹介いたしました。「症状が無いから大丈夫」とは限らないことを分かっていただけたと思います。
今回は、症状が無くても病気が悪くなっていくことがあることを事例を交えて紹介いたしました。
案外、症状が乏しいほうが悪い病気であることもありますので、油断は禁物ですね。定期的に検査を受けるなど、ご用心ください。